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最終話 原初の海よりいでし希望の光、鳳凰誕生

  • 執筆者の写真: 鴉月語り部
    鴉月語り部
  • 3月8日
  • 読了時間: 5分

更新日:3月10日




執筆日2024年3月11日


 天上の楽園、烏國(うこく)レイウ。

世界を巻き込んだ愚かなる王弟の反乱、彼らの愚かなる野望で世界の全てを敵に回してしまった。

偉大なる烏王が暗殺され混沌に陥る中、改めて新たな次世代烏王が宣誓する。

アガレス・レイウ、先代の第一子にして強大な力を持つ皇子。

漆黒の髪に禍々しい赤い眼を持つ彼は後世の魔王クロウ・デュンケルハイトと似て非なる王であった。


 大きな湖に囲まれた王城、原初の海にてここに鳳凰が誕生する……


多くの同胞が死した。

残った者らで不死の秘薬をようやく一人の男が完成させた。

彼はもう烏ですら無い一介の魔術師である。


完成させた彼は託すなら唯一無二の友である少年しか無いと心に決めていた。


「……貴方しかいないのです。

一片の穢れの無い、最も純粋で無垢なる魂を持つ貴方しか。


この世界は瘴気に溢れ、憎悪と穢れに満ちている。

我ら烏も人間も等しく……

貴方ならそれを浄化できる、瘴気に溢れた地上だけでなく魂すらをも浄化できるだろう。」


仮面の彼はどこか悲しげに少年に語り掛けた。

少年は強い心を持っていた。


「……それが、君の出した答えだったんだね。

わかった、僕が導く者になる。

石の巨人と謳われた伯父様も、世界を一緒に見守っていると思うから。」


少年は不死の秘薬を全て飲み干し原初の海に潜る。


……秘薬と伝承が正しいのなら。

太陽と同じように毎朝生まれ夕暮れと共に死んで次の朝に再び生き返るとされた。

生と死を繰り返す不死の存在……


時には不死鳥ベンヌともフェニックスとも云われた存在。

何度でも蘇る、真の意味での不死である。


『鮮やかに舞い上がり、そして光り輝く者』


神々が原初の海を見守る中、夕暮れに少年は太陽と共に死んだ。

息をしていない。


翌日の朝に蘇らなければ失敗に終わったということだ。

ここまで来てそんな事はさせるものか……





酷く永い時間が過ぎた気がした。

もうすぐ朝が来る。

皆が見守る中、朝日と共に原初の海が輝きだす。


「ユエイ様は……」

「ユエイ様」

「先の災厄にて海を割ったユエイ様」



暖かい黄金の光が彼らを包んだ。

どこか懐かしい……暖かい癒しの炎。

間違いなく彼だ。


大きく美しい七色の不死鳥が原初の海から誕生した。


「ユエイ様!」

「あの炎はユエイ様の翼だ!」


神々を包むその眩さと美しさに仮面の男自身も驚いていた。

……父の代から千年近く研究してきた不死の秘薬。

それを完成させた、こんな光景が見れると思っていなかった。


「立ち上がる者、鮮やかに舞い上がり、そして光り輝き者……

死んでも蘇る、永遠の時を生きる不死の鳥……phoenix


まさに貴方はガルトマーン(Garutmān、鳥の王)

スパルナ(Suparṇa、美しい翼を持つ者)

ラクタパクシャ(Rakta-pakṣa、赤い翼を持つ者)


そして……スレーンドラジット(Surendra-jit、雷神を滅ぼす者)」


仮面の男は思わず口走ってしまった。


「なんかくすぐったい響きだね、買い被り過ぎだよ

でもありがとう!


……僕らの偉大なる烏王さまにも、同じ事を言われたんだ。」


大きな不死鳥は照れた様子で翼を羽ばたかせる。


今はもういないがあの時確かにユエイの強力な浄化の炎であの愚かなる海蛇ウヤと雷獣ゲオルギオスを打ち破ったのだ。

彼に相応しい称号だろう。



「ねぇ、この姿で飛んでみてもいい?」


「ええ、飛行に支障が無いか見ておいた方が良い。

ユエイさん、人の姿は取れますか?

その姿は先祖帰りしたものでそれが正しい我等の姿なのでしょうが……

人型の方が何かと便利な面もありますからね。」


鳳凰が自由自在に空を駆ける中、神々は祝福の雰囲気に包まれていた。

あまりの美しさと暖かい光に誰もが感動した。

仮面の男の隻眼の妻は夫の隣で泣いていた、同時に身を犠牲にして秘薬を作り上げた夫との別れを察しているからだ。


「……泣かないで、セレーネ(月の女神)。

これからが希望と苦難の新時代の始まりです、貴女の協力もあったから完成したのです。」


セレーネと呼ばれた彼女は夫に肩を抱かれ、涙を拭って自らの研究の成果でもある不死鳥を見上げた。


いつの間にか不死鳥ユエイは背に神々の子供達を乗せて空を飛んでいる。

微笑ましくもこの平和な時間が愛おしい……


「ねぇ、ウーヴェ。

僕はこの先百年も何千年も生き続ける。

でも君はまた僕に会いに来てくれるよね?

魂だけは不変……


その時は、君の事をもっと教えて欲しいな。

僕たち親友でしょ?」


(隠していたのに察したか、わたくしの寿命がもうそんな永くは無いことを

……貴方は賢い、わたくしの罪も恐らく知っている、見透かされているだろう。)


「……ええ、約束します。また会いましょう。

必ず貴方に会いに来ますよ……

わたくしの最も尊敬する、親愛なる鳳凰ユエイ。」


仮面の男は少年と永遠の友情を約束した。


貴方は絶望の中に現れた希望の光なのだから……

どうかこの僅かな光を皆で灯し続けよう。


【後書き】

ずっと書きたかった、脳内にあった烏王創世記の残された者による大団円場面。

同時に新月神話伝の始まりの話でもあります。

物語を作った時から決まっている永遠の友情関係です。

ただ仮面の彼は功績が大きいけど二面性があるというか…

烏王創世記のラスト知ってる人と新月神話伝の始まりだけ見た人にとっては大きく印象が違うかもしれません。

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